こんなものに鍵かけてどうするの?と思ったもの

こんなものに鍵かけてどうするの?と思ったもの

 昔働いていた職場に王さんという中国人女性がいた。その職場で女性は私と王さんだけだったので、自然と昼休みは一緒にご飯を食べるようになった。日本語があまり上手ではない王さんとのコミュニケーションは時々大変だったけれど、あまり中国に対していいイメージを持っていなかった私は王さんのおかげで中国という国をとても身近に感じられるようになった。お隣の大陸で見た目も殆ど変らない同じアジア人だけど、中国人の考え方と日本人の考え方って、あらゆるところで違う。だからこそ国としてはお互いに相容れない部分もあるけれど、個人的に付き合えばきっといい人たちばかりなはずだ。

 だけど、やっぱりどうしても解せない部分もある。例えば私が原因不明の蕁麻疹になったとき、王さんが漢方の入った飲み物をくれたことがあった。けれども紙コップに入っている液体の表面には明らかに異物的な何かが浮いていて、私の本能が「ノムナ、ヤメロ」と告げていた。よくよく聞いてみると、その漢方には何と蝉の抜け殻(!)が入っているそうで、中国では皮膚病などによく効くと有名らしい。「あ、ありがとう」と一応お礼を言い、私はこっそりとトイレでそれを流してしまった。

王さんには、漢方のお陰でよくなった、と一応言っておいたが、それで気をよくした王さんは自分の机の鍵付きの引き出しから、おもむろに漢方を取り出して私にくれたのだった。きっと誰もその漢方を盗む人なんて日本にはいないと思うけれど、そんな風に鍵付きの引き出しにしまっておくなんて…ただでさえ漢方は高いと聞くのによほど高価なものなんだろう。私は罪悪感で押しつぶされそうになりながらも、必死で断った。王さんは「日本人はすぐに遠慮するんだから」と言って諦め、再び引き出しにしまってカギをかけていた。

いや、遠慮しているわけじゃないんだけど…私は二度と王さんに蕁麻疹ができたというのはやめようと心に決めたのだった。